会議で意見を求めても、誰も目を合わせてくれない。メンバー同士の会話も少なく、必要最低限の業務連絡しか交わされない。そんな「静かな職場」は、実は深刻な問題を抱えているかもしれません。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札目が合わないPhoto: Adobe Stock

とにかく空気が重い

 会議で「何か意見はありますか?」と問いかけても、誰も発言しない。

 メンバーは手元のパソコンを見つめ、互いに目を合わせようとしない。

 ようやく誰かが発言しても、返ってくるのは「承知しました」「その方向で進めます」といった事務的な返事だけ。

 大きなトラブルが起きているわけではありません。仕事も予定通りに進んでいるように見えます。

 しかし、会議室には何とも言えない重苦しい空気が漂っています。

 なぜそうなってしまうのか、悩んだことのある管理職の方もいるのではないでしょうか。

 実は、こうした状況を「特に問題は起きていない」と考えるのは危険です。

 表立った対立がないからといって、チーム内の人間関係が良好とは限らないからです。

 むしろ、激しい言い争いが起きているときよりも、問題が見えにくくなっている可能性があります。

「静かな拒絶」のサインかもしれない

 例えば、若手社員とベテラン社員が、新しい業務システムの導入をめぐって対立したとします。

 若手は「新しいツールで業務を効率化したい」と考え、ベテランは「現場の事情を理解せずに変えても、かえって混乱する」と反発します。

 上司が間に入り、最終的には導入方針に合意できました。

 ところが、その後も両者の関係はぎくしゃくしたままです。

 若手は必要最低限の報告しかしない。ベテランは細かな指摘を繰り返す。周囲のメンバーも、二人の顔色をうかがっています。

 こうした状態を、私は「静かな拒絶」と呼んでいます。

 意見の対立自体は解消したように見えても、感情的なしこりが残っている状態です。

 この状態が厄介なのは、表面上は仕事が進んでいるため、管理職が問題を見逃しやすいことです。

 しかし、本来なら互いの知識や経験を活かして協力できるはずのメンバーが、相手への不信感から情報共有を避けるようになれば、チームの力は確実に弱まっていきます。

「あの人は苦手」という思い込みが、対立を深める

 なぜ、一度こじれた人間関係は、なかなか修復されないのでしょうか。

 ここで知っておきたいのが、心理学でいう「ホーン効果」です。

 これは、相手に対する一つの悪い印象が、その人のほかの言動に対する評価まで悪くしてしまう認知バイアスです。

 例えば、ベテラン社員が「ミスがないように気をつけて」と声をかけたとします。

 本来は純粋な心配や確認かもしれません。

 しかし、相手を「自分を認めてくれない人」だと思い込んでいる若手には、「また細かく口出ししてきた」と聞こえてしまいます。

 反対に、若手が「仕様書通りに進めます」と真面目に答えても、ベテランには「自分の意見を軽視している」と感じられるかもしれません。

 つまり、一度相手を嫌いになると、何を言われても悪い意味に受け取ってしまうことがあるのです。

 この状態では、単に「もっと仲良くしよう」と働きかけても、根本的な解決にはつながりません。

解決のカギは「第三者の目」を入れること

 では、こうしたチームの冷え切った空気を変えるには、どうすればよいのでしょうか。

 私がおすすめしたいのは、「アシミュレーション」という手法です。

 対立する当事者同士に直接話し合わせるのではなく、第三者の視点を通じて、自分たちの言動が周囲にどう映っているかを客観的に知ってもらう方法です。

 例えば、上司がほかのチームメンバーに「二人のどんなところを評価しているか」「どんなことに困っているか」「これから何を期待しているか」を聞きます。

 そして、集まった意見を匿名化し、特定の個人を攻撃する形にならないよう整理したうえで、当事者に共有します。

「ベテランの経験は頼りになるが、若手が意見を出しにくくなっている」

「若手のスピード感は強みだが、現場の懸念も尊重してほしい」

 こうした周囲の声を知ることで、当事者は初めて、自分たちの対立がチーム全体に与えている影響に気づけるかもしれません。

 もちろん、匿名性の確保や情報の扱いには十分な配慮が必要です。また、集まった意見を安易に「チーム全員の総意」と決めつけてはいけません。

 大切なのは、相手の欠点を指摘し合うことではなく、互いの強みや期待を再確認することです。

 それができるのは管理職の立場のあなただけ。管理職の仕事は、部下同士の衝突をただ抑え込むことではありません。

 対立の奥にある不信感を見つけ、互いの強みを活かして協力できる状態をつくることです。