長年にわたり「世界の警察」として国際社会に君臨してきたアメリカ。しかし、世界各地への軍事介入で多くの犠牲を生んできた歴史を振り返れば、アメリカが世界から手を引くことは、必ずしも悪いことではないという。アメリカは「特別な国」から「普通の国」へと変わっていくのか。国際政治学者で、『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からのアメリカ史』に推薦コメントを寄せた三牧聖子氏に聞いた(取材・構成/石井広行)。
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孤立主義は必ずしも悪いことではない
――アメリカ外交のこれまでの歴史を見ると、モンロー主義のような孤立主義と、国際主義の間を行き来しながら進んできたイメージがあります。お話を伺っていると、今のアメリカはすでに、孤立主義に傾きつつあると見ても良いのでしょうか。
三牧聖子(以下、三牧):そうですね。そして、孤立主義というと、どこかネガティブな印象があり、どうしても国際主義の方が言葉として良い響きがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
これまでのアメリカは国際主義、もっと言えば介入主義でした。我々同盟国から見れば、アメリカの介入の矛先がこちらに向くわけではないので、世界の警察としてありがたい存在だったのかもしれません。ですが、いわゆる「テロとの戦い」での犠牲の大きさなどを見ても、決してポジティブにばかり捉えることはできません。
もちろん、9.11同時多発テロによる2977名の犠牲はほんとうに痛ましいことです。しかし、その後の「テロとの戦い」に伴う各地の紛争では、民間人と戦闘員を合わせて約90万人、民間人だけでも40万人以上が戦闘や攻撃によって命を落としています。この甚大な犠牲を不問に付すわけにはいきません。
つまり、国際社会の盟主として各地に介入してきたアメリカは、凄まじい数の犠牲をもたらしてきたのです。世界を見渡せば、正直なところアメリカがもう少し引っ込んでくれていた方がありがたい、と考える国の方が多いかもしれません。
アメリカが世界から手を引くのはもはや必然
三牧:イラン戦争もそうです。日本が迷惑を被っているのはもちろん、世界経済に対しても著しいマイナスの影響を及ぼしてしまっている。だから、日本以外の各国は、アメリカが覇権から手を引いた世界そのものをむしろ望ましいと考え、そのような世界でどう自分たちの国の利益を保っていくのかを探っている、というのが今の世界のマインドです。
したがって、「こんなに多くの犠牲を伴う戦争を遂行してきた」という内省がアメリカの中に生まれ、世界からだんだん手を引いていこうとすること自体は、私はむしろポジティブに評価しています。
一方でトランプ政権には、世界から手を引く代わりに南北米大陸のある西半球ではやりたいようにやる、といった、勢力圏の発想が流れ込んでいます。それはやはり許容されるべきではないことです。
ただいずれにしても、アメリカが自国第一の方向に進んでいくことは、もはや必然であり、アメリカの中でも、誰も押しとどめられないのだと思います。
ひょっとすると、そもそも9.11がなかったら、もっと早くそうしたトレンドが出てきていたのかもしれません。9.11に呼び覚まされるようにして、アメリカが再び世界に介入したものの、それが大失敗に終わり、そしてまた元に戻った、ということなのでしょう。
アメリカが「普通の国」になる時が来た
三牧:国際主義に関してもう一つ付け加えると、今トランプ政権が見せているような、国連に対する敵対姿勢や、国際刑事裁判所(ICC)への制裁を発動するといった動きは、ほんとうに望ましくないタイプの国際主義です。
実は、アメリカの中でICC制裁を支持している人は3割しかいません。そもそもアメリカは国際刑事裁判所に加盟自体していませんが、メリーランド大学が2025年6月に実施した調査によると、6割の人が加盟に賛成しています。
つまり、アメリカも他の国と同じように、フラットにICCのような国際機関の枠組みに参加するべきだ、言い換えれば、普通の国と同じような立ち位置にアメリカも立つべきだ、というわけです。
こうした、これまでにない新しい国際主義が今後もたらす可能性に私は期待しています。ですから、現在のアメリカの「内向き」とか「孤立主義」と呼ばれるようなトレンドについて、必ずしもマイナスイメージでは捉えていません。
そして、とりわけ2000年代以降の20年間は、アフガニスタン、イラクはじめ、多くの世界の国々にとっては、アメリカの介入に翻弄された、破壊された20年だったということは、改めて念頭に置いておきたいところです。
若い世代の連帯意識に期待
三牧:そして私が関心を持っているのは、アメリカの若い世代の動向です。
私は『Z世代のアメリカ』という本を2023年に出版しました。この本では、Z世代(1990年代後半~2010年代前半に生まれた世代)が、自分たちの国は不完全で弱い国なんだという、良い意味で控えめな自国意識を持つようになっていることを掘り下げ、そのことによる社会の変化を展望しました。
この本にも書いたように、アメリカの若い世代は、世界の弱者に寄せるシンパシーのようなものを持つようになってきています。
イスラエルとパレスチナの問題についても、これまでですと、イスラエルという「強者」の側に立つのがアメリカの感覚としては当たり前でした。しかし、今多くの若者が、自分たち自身が経済的にカツカツだからということもあり、だんだんフラットに世界を見るようになっています。これ以上アメリカが抑圧者の方に加担するのは許されない、という新しい世代の認識は、パレスチナ連帯の大きな力になっています。
気候変動問題についても同様です。気候変動対策は、トランプ政権の4年間でずいぶん止まってしまいました。このままだと、地球が人類にとって住めるところではなくなってしまうのではないか。そんな、若い世代のリアルな体感から来る危惧が感じられます。
若い世代には、「アメリカという国は豊かで特別な国なんだ」という意識ではなく、「みんなでこの星を破壊から守ろう」といった意識があるのだと思います。アメリカを特別視する自意識過剰な人々から国や地球を守ろうとする若い世代の連帯意識には大いに期待していますが、逆に言うと、そういうところにしか、今の世界が救われるシナリオはないのかもしれません。









