「役員会や社内会議でよくありがちなのは肩書が上の人の意見が通ってしまうこと」

 正しいか間違っているかで判断せず、社長の意見だから、部長が言ったことだからと通してしまえば、誰も意見を言わなくなる。新入社員の発言でも、正しければ会議を通る。そういう体質でなければ会社は伸びない、と孫氏は続けた。役員会とは別に、若い社員を自分の部屋に呼んで長時間議論しているとも話している。

 対談相手の柳井氏も、社長の指示どおりに現場が動くだけの会社は間違いなくつぶれると語った。現場から「社長、それは違います」と言える会社にしておかないと、知らないうちに誤った方向へ進む、という見立てだ。社外取締役として出ていたソフトバンクの役員会について、孫氏が一人で決めているように見えて、実際はみんなで議論して決めているとも話している。

提案を退けるときにこそ
差が出る

 店頭で客の不満を聞いた担当者と、売り上げの数字を見ている部長が、商品の改良をめぐって話し合ったとする。担当者は、客が使い方に戸惑っていると訴える。部長は、売れているのだから変える必要はないと返す。

 担当者の話は、同じ商品を使う多くの客に当てはまるのか。売れていれば直さなくていいのか。検討すべきことは、まだ残っている。

 ここで部長の肩書きが話を終わらせたら、客が何に困っているのかは誰も調べない。担当者が見たのは店頭の一場面で、部長が見ているのは販売全体だ。両方を突き合わせ、直すなら費用と手順を詰め、見送るなら理由を伝える。肩書きのある人の仕事は、本来そこまで含んでいる。

 若手に意見を言わせるなら、中身がよければ自分の案を改めるところまで引き受けるべきだ。話す時間を与えて最後に礼を言うだけなら、せっかくの発言の場も、上司の結論を確かめる時間で終わる。

 提案を退けるときにこそ、差が出る。費用がかかりすぎるのか、客の困りごとを読み違えているのか。理由がわかれば、部下は次にどこを直せばいいかがわかる。「上の意向だ」としか言われなければ、残る教訓は「誰に根回ししておけばよかったか」くらいだろう。

 職場で意見を言いやすくするのに必要なのは、上司が話し方を柔らかくすることではない。部下の意見によって結論が変わる余地を、実際に見せることだ。若手の指摘で実際に判断が変われば、次の会議でも発言しやすくなるだろう。

 社長の案に賛成するときも同じだ。自分で確かめた理由を言えず、「社長が言ったから」で部下を動かす管理職を、私は有能とは思わない。部下が現場で集めてきた知識を、会社の判断に生かす仕事を自分から手放しているからだ。名刺の肩書きは、議論を打ち切るための道具ではない。

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