GAFAMの創業経営者が起業した年齢は平均23歳。一方、歴史家の知的生産の「半減期」は平均39.7年――。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんが示すこの対比には、人生後半の戦略を考える大きなヒントが隠されています。加齢で低下する知性と、むしろ向上する知性。「2つの知性の波」を乗り換えるという発想について聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

老後、どんどん賢くなる人の共通点・ベスト1Photo: Adobe Stock

高齢でも「言葉の鋭さ」が失われない人の秘密

――年を取ると頭が固くなるとよく言われますが、知的パフォーマンスがまったく落ちないような人もいますね。何か秘訣があるのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):私たちの知的パフォーマンスには、実は「加齢によって低下する種類のもの」と「加齢によってむしろ向上する種類のもの」の2種類があるんです。心理学者のレイモンド・キャテルはこれを「流動性知能と結晶性知能」という枠組みで整理しました。

ご高齢にもかかわらず、一向に「言葉の鋭さ」が失われないと感じさせる人がいますよね。高齢者は全般に若い人よりも豊富な語彙を持ち、それらを組み合わせて概念や状況を的確に表現するのが得意です。複雑なアイデアを説明することも得意で、時には発案者以上にわかりやすく解説することもできますし、複雑なアイデアを組み合わせて活用する能力も、高齢者の方が高いことがわかっています。これは、加齢とともに向上する「結晶性知能」の働きによるものなんです。

GAFAMの創業者は平均23歳だった

――2つの知能は、どう違うのでしょうか。

山口:流動性知能とは「過去の経験や学習に依存せず、論理的に考えたり、パターンを見つけたりする知的能力」のことです。複雑なパズルを解く、未経験の問題に対処する、といった場面で有効で、革新的なアイデアを生み出す人は概して高い流動性知能の持ち主です。この知能は20歳前後にピークに達し、40代以降は急速に低下します。GAFAMの創業経営者の創業時年齢の平均は23歳で、流動性知能が最も高まる時期と一致していますが、これは偶然ではないでしょう。

一方の結晶性知能とは「過去の経験や学習によって蓄積された知識やスキルを活用する知的能力」のことです。複雑なアイデアをわかりやすく説明する、混乱した状況で適切な意思決定を行う、といった場面で有効です。経験と幅広い知識の蓄積に依存するため年を追うごとに向上し、50~60代にピークを迎え、その後も高原状態を維持します。

両者では知性の質が異なり、さらに重要なのは「人生の異なる時期に2つの波を作り出す」ということです。

人生後半から高まる知能を活かす

――高齢になっても知的パフォーマンスが低下しない人は、結晶性知能を発揮しているということですね。

山口:そういうことです。心理学者ディーン・サイモントンの研究によれば、知的生産性のピークが半分に落ちるまでの期間(半減期)は、平均20年だといいます。ただし、これは職業によって大きくばらつきがあり、非常に半減期が長い職業もあります。

ひとつが「歴史家」で、半減期はなんと平均39.7年です。25歳でキャリアを始めれば、60代になってやっと半減期がくる計算です。大量の知識と洞察を蓄え、人生経験と統合する必要がある、つまり結晶性知能に依存する度合いが大きいからです。

もうひとつ、結晶性知能と相性が良いのが、カウンセラーや教師などの「支援者」です。

つまり、年長者でありながら支援者である「サーバントリーダーシップ」のスタイルは、50~60代の「人生の秋」から高まる結晶性知能と非常にフィットするんです。

――人生の後半、流動性知能の衰えを感じる頃に、結晶性知能のピークがくるというのは頼もしい感じがします。

山口:私たちはこの「知性の2つの波」を乗り換えるように、人生戦略を切り替えればいいわけです。

サーバントリーダーシップの提唱者ロバート・グリーンリーフ自身、50代で巨大企業のAT&Tを早期退職し、在野の独立研究者としてサーバントリーダーシップの研究に打ち込みました。彼は、人生の後半に「人生を賭けてみたい」と思えるテーマに出会い、それを死ぬまで実践し続け、多くの人々を支援したんです。

サーバントリーダーシップのコンセプトそのものがインスピレーションを与えてくれるのはもちろんのこと、グリーンリーフの生き方そのものが、大きな勇気と明るい希望を与えてくれるもののように思えますね。