リクルートワークス研究所の研究員・アナリストとして、高齢期の就労や賃金の動向を研究してきた坂本貴志さん。新刊『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』では、19の職種、100の仕事をデータとともに紹介している。100人超のシニア就業者へのヒアリングの中で、繰り返し語られた後悔があった。それは意外にも、職種選びでも貯蓄額でもなかったという。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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ワースト1は「辞めてから、次を探し始めたこと」
――老後に絶対に後悔すること。ワースト1を挙げるとしたら。
坂本貴志(以下、坂本):「仕事を辞めてから、次の仕事を探し始めたこと」です。
定年や契約満了で一度ゼロになって、少し休んでから考えよう、と。気持ちとしては自然ですし、長年働いてきたのだから当然とも言えます。ところが、この順番が後から効いてくるんです。
――空白をつくってしまう、ということですか。
坂本:ええ。しかも本人は、空白をつくっているつもりがない。「そのうち探せばいい」と思っているうちに、探せる条件のほうが変わってしまう。
1年の空白が、思ったより重い
――実際に、そういう方はいらっしゃいましたか。
坂本:IT企業で人事部長をされていた方が、63歳で退職されました。退職後の1年間は仕事をせず、趣味の麻雀三昧の日々だったそうです。
ただ、こうおっしゃっていました。「友人たちはまだリタイアしていないし、時間を持て余してしまって」と。
――周りがまだ働いている。
坂本:そこなんです。60代前半は、同世代の多くがまだ現役です。自分だけ時間が空いても、一緒に過ごす相手がいない。休むつもりが、ただ持て余すことになる。
この方は結局、仕事を探し始めます。物流会社を選択定年で退職された別の方は、その時期に大きな病気が見つかって闘病生活に入り、体が動くようになってから職探しを始めたところ、かなり苦戦されました。休んでいる間に健康状態が変わってしまうことも、現実には起こります。
未経験の壁は、60歳を過ぎると急に高くなる
――ブランクがあると、仕事は見つかりにくくなりますか。
坂本:見つかりにくくなるというより、「未経験の仕事」の扉が閉まりやすくなります。
自動車メーカーを60歳で定年退職された方は、製造業ひとすじ40年だったので、まったく別の世界を見たいとハローワークで図書館の仕事を探しました。ところが、どの求人も経験者か資格がないと応募できない。唯一あった未経験可の求人も、問い合わせたら結局「経験者がいい」と断られてしまった。
――希望の仕事に就けなかった。
坂本:いったん諦めて、高速道路の料金所で働くことになります。13時間勤務で1日出たら2日休み、時給は当時1100円、夜勤は1400円。条件は悪くないのですが、ご本人は「通過する車を見張る役割しか与えられず、面白いとは思えなかった」とおっしゃっていました。
その後、新聞広告で県立図書館が100名を募集しているのを見つけて応募し、ようやく希望が叶います。もう11年になるそうです。ただ、その間に回り道が一度入っている。
仕事は「人づて」でやってくる
――そもそも、定年後の仕事はどこで見つかるのでしょう。
坂本:65歳以降の入職経路で最も多いのはハローワークで、23.6%です。何か特別な方法があるわけではありません。
ただ、ヒアリングで印象的なのは、人づての多さです。先ほどの人事部長の方が列車見張員の仕事を知ったのは、麻雀仲間から教えてもらったからでした。近所の知人に誘われて特別支援教育支援員になった方もいます。
――辞めてしまうと、その人づてが細る。
坂本:そうなんです。旅行会社で40年以上働いて、グループ会社に転籍された方は、70歳の時点で「もうお払い箱か」と思っていたところ、上司から「健康でまだ働く意欲があるなら、アルバイトで賃金は下がるけれど手伝ってくれないか」と声をかけられました。
ご本人も「この年から新しい分野に飛び込むのは難しいだろう」と思っていたので、互いの希望が合致した形です。今も時給1500円で働いていて、「70歳を超えてこの条件はなかなかない」と。
この声は、その場にいたからかかったんです。辞めて1年経っていたら、おそらく来ていない。
――では、後悔しないためには。
坂本:辞める前に、次の線を一本引いておくことです。応募まで済ませる必要はありません。ハローワークやシルバー人材センターに登録しておく、気になる求人の条件を見ておく、周りに「こういう仕事を探している」と言っておく。それだけで、声がかかる確率はまったく変わります。
実際、先ほどの人事部長の方は、列車見張員を怪我で辞めた後、シルバー人材センターに登録して気長に待つつもりでいたところ、2週間も経たずに交通指導員の話が来ました。しかも自宅の目の前の小学校の通学路です。
線がつながっていれば、次は向こうからやってくる。切れてから探し始めると、全部こちらから取りにいかなければならない。後悔するのは、たいていこの差です。
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




