こちらを指さす男性写真はイメージです Photo:PIXTA

管理会社が本当に嫌がるのは
「値上げ拒否」より「厄介な住民」?

 ある日届いた管理会社からの通知に、「契約を更新しません」と書かれていたとしたら。それは事実上の撤退通知であり、今や多くの管理組合が直面しつつある現実でもある。

 背景にあるのは、深刻な人材不足と企業合併などによる大手への集約だ。限られた人員の中、各社は収益性が低い、あるいは対応負担が重いと判断されたマンションからの撤退を進めている。私たちさくら事務所にもこうした相談が相次いでおり、この流れは今後さらに強まっていくとみてよいだろう。

 管理会社はどのような判断で撤退を決めるのか。そして、撤退した先に何が待っているのか。数々の現場事例から見えてきた実態をもとに、撤退の理由と管理組合側の現実的な向き合い方を整理していきたい。

 管理会社が契約打ち切りを決める理由として、お金の問題を連想する方も多いだろう。具体的には、二つのパターンが考えられる。

 一つは収益性の問題だ。管理費の会計だけでは賄いきれず、今後も収益改善が見込めないと判断されれば、撤退という選択肢が浮上する。もう一つは、値上げ拒否である。管理費会計に値上げの余力があるにもかかわらず、組合側が応じないケースだ。一般的には、こうしたお金を巡る対立が撤退の主因だと受け止められやすい。

 しかし、さくら事務所に寄せられる相談を見る限り、実態は異なる。撤退の引き金になっているのは、むしろ「人」の問題なのだ。最も多いのが、特定の組合員が管理会社にとって極めて大きな負担となっているケースである。頻繁な連絡で担当者が精神的に追い込まれ、交代が繰り返される。総会のたびに「管理会社は何もしていない」と批判を展開され、現場のモチベーションが削られていく。近年各社が進めるカスタマーハラスメント対策に照らしても、見過ごせない水準だ。

 こうした現場の疲弊は上司への報告を通じて「対応困難な物件」として社内で共有され、撤退判断の材料になり得る。しかも、その影響は一棟にとどまらない。一人の担当者が他に10棟を担当していた場合、離職すれば残る10棟にも穴が空いてしまう。採用や育成のコストも重なるため、マンション管理会社の経営にとって特定のマンションを抱え続けるリスクは、すでに無視できない水準に達してしまっているのだ。

 厄介なのは、こうした「人」への対応コストを管理委託費に上乗せできない点だ。業務内容は各社ほぼ共通のフォーマットで規定されており、「特定の組合員対応に時間がかかるので費用を割り増しします」と言ったところで、他の組合員の理解は得にくい。かといって理事会から「管理会社はプロなのだから何とかしてほしい」と言われても、決定権のない管理会社のできることには限界がある。理事会としても、同じマンションに住む相手と正面から対立するのは避けたいのが実情であり、結果として管理会社だけが板挟みとなってしまう。万策尽きた末に、撤退を選ぶしかなくなるのが現状だ。

 では、実際に管理会社が撤退した場合、マンションの日常にはどのような影響が及ぶのだろうか。